2008年03月09日

第2章: 数学の本質

この章の翻訳を担当したのは、hoytさんです。
[2-1]-[2-21]
1st par in chap 2
[chapter 2]2nd - 4th par in chapter 2
5th - 11th in chapter 2
[chapter 2]12th - 14th in chap 2
[chapter 2]15th - 21st in chap 2
     

第2章: 数学の本質

パターンと関係性

数学・科学・技術

数学における問題解決


第2章: 数学の本質

[2-1]

数学には論理的な側面と創造的な側面があり、さまざまな実用的な目的や、それ自身の興味のために研究されてきた。ある人々(プロの数学者とは限らない)にとっては、数学の本質はその美しさと知的な挑戦にある。またある人々(多くの科学者やエンジニアを含む)にとっては、数学の主要な価値は仕事に応用できることにある。このように数学は現代文化において中心的な役割を果たしているのだから、数学の本質をある程度理解することは科学を理解するうえで不可欠である。このためには、学生は数学が科学の勉強の一部であることを知り、数学的な思考を理解し、重要な数学的な概念と技術に慣れ親しむ必要がある。

[2-2]

この章では、まず科学の営みの一部としての数学に焦点を当て、次に思考過程や思考方法としての数学に移る。数学的な概念に関連する推奨事項は9章の数学的な世界で、数学的な技術についての推奨事項は12章の心の習性で説明する。

[2-3]

パターンと関係性

数学はパターンと関係性の科学である。数学は理論的な学問であり、抽象化された物事の間の関係性を研究する。抽象化された物の対応物が現実世界にあるかどうかは問題にならない。抽象化は、数の並びから、幾何学的な形や、方程式の組にまで及ぶ。たとえば、「素数の間隔には何かパターンがあるか」という問題を理論的に考えるときに、数学者はそのパターンを見つけたりパターンがないという証明をすることに興味があるのであって、その知識が何かに使えるかどうかには興味がない。またたとえば、正多面体の体積が小さくなるにつれて表面積がどのように変わるかの表式を求めるとき、数学者はその幾何学的な立体と現実世界にある物体の間に対応があるかどうかには興味がない。

[2-4]

純粋数学の研究は、それぞれの研究分野の中で、少数の基本的な概念と法則を見つけることを中心にして進む。それらの概念や法則から他の興味ある概念や法則が論理的に導かれるのだ。それまで関係がないと考えられていたことが、他のことやもっと一般的な理論から導くことができるとわかるとき、数学者はほかの科学者と同じように非常な喜びを感じる。多くの人が数学に関して美しいと感じるのは、表現や証明の複雑さや掛かった労力の大きさに対してではなく、単純さや労力が節約できることに対してである。数学が進歩するにつれて、別々に発展してきた数学の分野が互いに関係していることが次々とわかってきた。たとえば、代数学における記号的な表現と幾何学における空間的な表現の関係である。こういった互いの関わり合いがさまざまな分野での知見を発展させ、体系全体が正しいことや潜在的にひとつながりであることへの確信を深めてきたのである。

[2-5]

数学は応用科学でもある。多くの数学者が、経験的な世界に由来を持つ問題を解くことに力を注いでいる。そういった数学者たちもやはりパターンと関係性を探し、その過程で純粋数学者と似たようなテクニックを使う。応用数学者と純粋数学者の違いは主に目的の違いにある。純粋数学者とは対照的に、応用数学者は、上の例で言うと素数の間隔を抽象的な問題としてではなく、数値的な情報を符号化するための新しいシステムを開発するために研究したりする。体積と表面積の例では、応用数学者は結晶の振る舞いを研究するためのモデルを作るステップとしてその問題に取り組んだりする。

[2-6]

純粋数学と応用数学の成果は互いに影響しあうことがよくある。純粋数学における発見が(数十年遅れることもあるが)まったく予見されなかった実用的な価値を持つことがしばしば後になって判明する。たとえば、ランダムな事象の数学的な性質の研究が、後になって社会科学や自然科学の実験のデザインを改良するための知識に役立った。逆に、長距離電話の利用者に公平に課金するという問題を解こうと努力する中で、数学者は複雑なネットワークの数学についての基礎になる発見をした。純粋数学は他の科学と違って現実世界に縛られてはいないが、長い目で見れば世界をよりよく理解することに貢献しているのである。

[2-7]

数学・科学・技術

数学は抽象的なので、他の学問分野とは違う意味で普遍的である。数学は、ビジネス・産業・音楽・歴史的研究・政治・スポーツ・医学・農学・工学・社会科学や自然科学に有益な応用がある。数学と他の分野の基礎科学や応用科学との関係は特に深い。これは次のような様々な理由がある。

[2-8]
  • 科学と数学の協力関係は数百年の長い歴史を持つ。科学は数学に対して興味深い研究すべき問題を提供し、数学は科学に対してデータ解析のための強力な道具を提供する。数学者たちがそれ自体の目的のために研究してきた抽象的なパターンが、ずっと後になって科学にとって非常に有用であると判明することは頻繁にある。科学と数学はどちらも一般的なパターンと関係性を発見しようとする。その意味で両者は同じ営みの一部なのである。
[2-9]
  • 数学は科学の主要な言葉である。数学の記号的な言葉は、科学的な概念をあいまいさを残さずに表すのに非常に役に立つことがわかってきた。a=F/m という式は、単に物体の加速度がかけられた力と物体の質量に依存するということを示しているのではない。むしろ加速度・力・質量という変数の間の量的な関係を精密に表しているのである。もっと重要なことは、数学は科学の文法、つまり科学的な概念やデータを厳密に解析するためのルールを提供しているということである。
[2-10]
  • 数学と科学は多くの共通点を持っている。それは次のようなものである:理解可能な秩序の存在への信望、想像力と厳密な論理の相互作用、公正さと開かれた議論の理想形、同じ分野の専門家による批評の決定的な重要性、鍵になる発見を最初にすることに置かれる価値の大きさ、国際的な広がりなど。さらに、強力なコンピュータの発達によって新たな研究分野が開かれたことも共通点のひとつである。
[2-11]
  • 数学と技術も互いに有益な関係を築いてきた。たとえば、繋がりと論理の鎖の数学はコンピュータのハードウェアの設計やプログラミングの技術に非常に大きな貢献をしてきた。数学はもっと一般的に工学にも貢献がある。たとえばコンピュータでシミュレートされる複雑なシステムを記述する場合である。そういったシミュレーションでは、設計のポイントや動作の条件は最適な設計方法を見つけるための手段として変化させられる。コンピュータの技術の側からは、数学や証明論におけるまったく新しい領域を開いたり、それまではまったく手が出せなかった問題を解く手助けをしてきたりしている。
[2-12]

数学における問題解決

数学を使って概念を表したり問題を解いたりするときには、少なくとも3つの段階がある。 (1)物事のある側面を抽象的に表現する。 (2)抽象化されたものを論理的なルールによって操作し、それらの間の新しい関係を見出す。 (3)その新しい関係が元の物事に関して何か有用なことを示していないか考える。

[2-13]

抽象化と記号的表現

数学的な思考はしばしば物事を抽象化する過程(つまり2つ以上のものや事象の間の類似性に気づくこと)から始まる。それらが共通に持つ(具体的であったり仮説上のものであったりする)側面は、数や文字、記号、図式、幾何学的な構造物や、時には言葉で表される。数は、ものや事象の大きさを抽象化したものであったり、ものの集まりの中での順番であったりする。概念としての円は、人間の顔や花、車輪、広がる波紋を抽象したものである。Aという文字は、どんな形の物体の表面積も、どんな動く物体の加速度も、何か特定の性質を持つすべてのものも表すことができる。+という記号は『足す』という過程を表しており、足されるものがリンゴなのかオレンジなのか、時間なのか、時速なのかということは関係がない。さらに、抽象化は必ずしも具体的なものや過程からなされるわけではない。ある種の数(たとえば偶数)のように、すでに抽象化された物事からまた抽象化されて作られるものもある。

[2-14]

このように抽象化を行うことによって、数学者は物事の特定の側面に集中することが可能になり、それ以外の点に頭を使い続けなくてよくなるのである。数学に関する限り、ある三角形が船の帆の面積を表しているのか、1つの星に集まる2本の視線を表しているのかは問題にならない。数学者はどちらの概念についても同じ方法で取り組むことができる。抽象化を行う際に、研究している事象の結果を決める重要な役割を担う要素を見落とさなければ、数学による労力の節約は非常に有用なものになる。

[2-15]

数学的な命題の操作

抽象化をして、それらに対する記号的表現を選んだら、その記号を正確に定義された規則に従ってさまざまに結合することを繰り返す。それは決まった目標に向かって行われることもある。試しにやってみて、何が起こるか見てみる時もある。適切な操作が、構成している単語や記号の直感的な意味と簡単に対応することもある。試行錯誤を繰り返してようやく有用な操作が見つかることもある。

[2-16]

概して、記号の列はつなげられて、概念や命題を表す内容を記述することになる。例えば、正方形の面積を表すAという記号と、正方形の辺の長さを表すsという記号を一緒に使って、A = s^2 という命題ができる。この等式は面積が辺の長さとどう関係しているかということと、辺以外のものには関係していないことを記述している。すると、通常の代数の規則を使うと、もし正方形の辺の長さが2倍になったら正方形の面積は4倍になるということがわかる。もっと一般的に、この知識によって、辺の長さがどう変わっても面積がどうなるかがわかるし、逆に面積が変わると辺の長さがどう変わるかもわかる。

[2-17]

抽象的な関係についての数学的な知見は数千年にわたって広がってきた。それは現在でも拡大し続けており、時には修正されることもある。数学は、物を数えたり測ったりという具体的な経験に根ざしているが、抽象化を何度もくぐり抜け、現在では物理的な実証よりも内的な論理にその基礎を置いている。そしてある意味で、抽象化されたものの操作はゲームに似ている。基本的な規則から始まり、その規則にしたがって動く。その動きには新しい規則を追加したり、古い規則の間の関係を見つけることも含まれる。新しい考えが有効かどうかは、その規則に矛盾がなく、他の規則と論理的に関係しているかどうかで判定される。

[2-18]

数学の応用

M数学的な方法では、物事のある種のモデルをつくり、そこから元の物事についての知見を得ることがある。抽象的な数学の内容はモデル化された物事についての有用な事実を含んでいることもあるし、そうでないこともある。例えば、カップ2杯分の水とカップ3杯分の水を合わせるとき、合計を求めるために抽象的な2+3=5という計算を使ったとすれば、カップ5杯分の水という正しい答えが得られる。しかし、カップ2杯分の砂糖とカップ3杯分の紅茶を合わせると、実際には4杯とちょっとの非常に甘い紅茶ができるのだから、同じように操作をして5という答えを出しても間違いである。単純に体積を足すのは1つ目の状況では正しいが、2つ目に対しては正しくない。2つの状況の間の物理的な違いを知って初めて結果の予測が可能になるのである。だから、数学をうまく使って結果を正しく解釈するためには、単に抽象的な操作が数学的に正しいかどうかだけを考えているのではだめで、表現したい物事の性質がどれだけ抽象化されたものに対応しているかも考慮に入れる必要がある。

[2-19]

数学によって導かれた結果が適切かどうかは、常識的に考えれば十分な場合もある。例えば、現在身長が5フィート5インチ(訳注:約165cm)ある少女が、現在一年に1インチ(約2.5cm)の割合で背が伸びているとすると、20年後の身長はどうなるかを考える。常識で考えれば、単純に毎年1インチと20年を掛け算した分背が伸びて7フィート1インチ(約216cm)になるという計算はほとんどありえないので却下される。代わりに、極限値に近づいてゆく曲線のような、他の数学的なモデルを考えるだろう。しかし、数学によって導かれた結果がどのくらい適切かを知るのが難しい場合もある。例えば、株式市場の株価や地震を予測したりしようとする場合である。

[2-20]

数学的な推論を一通りやっただけでは満足行く結果が得られないことはよくある。そこで問題を数学的に表現する方法を変えてみたり、数学的な操作を変えてみることになる。実際には、それぞれの手順の間で右往左往することもあり、どうやって進んだら良いかという規則はない。時々しか進まなかったり、間違った結果が出て失敗に終わることもある。この過程は十分に良い結果が出るまで続く。

[2-21]

しかし、どれだけ正確な結果が出れば十分に良いのだろうか?その答えは、結果がどう使われるかや、誤差によってどんな影響が出るか、もっと正確なモデル化や計算をするためのコストがどれだけかかるかによる。例えば、ケーキを作るときに砂糖の量を1%間違えても問題はないが、宇宙探査機の軌道の計算を1%間違えると悲惨なことになる。しかし、『十分に良い』結果を求めるという問題は非常に重要であって、結果がどのくらいはずれるかや、必要な正確さを得るためにはどのくらいの計算量が必要かといったことを見積もるための数学的な方法が発展してきたのである。

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